
フリーランスはどの保険に入るべき?初心者がまず押さえたい保険の種類
更新日 / 2025.12.26
フリーランスとして独立すると、仕事の内容も働き方も自由になる一方で、万一のときに自分を守ってくれる仕組みは、自分で選んで整えなければなりません。会社員のときは、健康保険や厚生年金、労災保険などを意識せずに利用できていた人がほとんどでしょう。
ただ、いざ独立してみると「どの保険に入っておけばいいのか」「そもそも今、自分は何に守られているのか」が分からないまま、なんとなく不安を抱えている人も多いはずです。
この記事では、フリーランス初心者がまず押さえておきたい保険の全体像を整理しつつ、特に見落とされがちな労災保険の特別加入のポイントを中心に解説します。読み終えるころには、「自分の場合はどの保険を優先して検討すべきか」を自分で判断できる状態になることを目指します。
フリーランスはなぜ「保険」を真剣に考えないといけないのか
このパートでは、「なぜフリーランスこそ保険を真剣に考える必要があるのか」を、会社員との違いから整理します。ここを理解しておくと、保険選びが「なんとなく不安だから入る」ではなく、「自分でリスクとコストを天秤にかけて選ぶ」行為に変わります。
会社員時代とフリーランスで変わる「守られ方」の違い
会社員のときは、会社が社会保険の手続きや保険料の半分負担をしてくれていました。仕事中や通勤中にケガをしたときは労災保険、病気で長期休職するときは傷病手当金、失業したときは雇用保険の給付など、さまざまな公的な仕組みに守られています。
フリーランスになると、同じような出来事が起きても、同じようには守られません。ざっくり整理すると、次のような違いがあります。
・健康保険
会社員 : 会社の健康保険組合などに加入し、保険料は会社と折半
フリーランス : 自治体の国民健康保険や、退職後の任意継続などに自分で加入し、保険料は原則全額自己負担
・年金
会社員 : 国民年金に加えて厚生年金に加入し、将来受け取れる年金額が多い
フリーランス : 原則として国民年金のみで、老後の受給額は会社員時代より少なくなりやすい
・労災と失業
会社員 : 業務災害は労災保険、失業時は雇用保険により一定期間収入を補える
フリーランス : 原則として労災保険と雇用保険の対象外で、収入が止まればそのまま生活に直結する
このように、独立した瞬間から「守られ方」の前提が大きく変わります。だからこそ、自分の働き方に合った保険を組み合わせておくことが重要になります。
いま多くのフリーランス初心者が抱えている不安
フリーランス初心者の多くは、次のようなモヤモヤを抱えています。
- 業務委託契約書に「労災保険の適用はありません」「自己の責任と負担で」といった文言があり、仕事中のケガが全部自腹になるのではないかと不安
- 病気やケガで数か月働けなくなったら、生活費や家族の生活をどうすればよいのかイメージがわかない
- インターネットで保険を調べても、公的保険と民間保険、必須なものと任意のものの境目が分からず、結局なにも決められない
この記事のゴールは、「保険の種類をたくさん覚えること」ではありません。目的は次の二つです。
- 自分が直面しやすいリスクを整理し、「どこまでを保険でカバーし、どこからを自分の貯蓄で受け止めるか」を考えられるようになる
- 公的保険、労災保険、所得補償系保険、賠償責任保険などの役割を理解し、自分の状況に合った優先順位をつけられるようになる
この視点を持てれば、「とりあえず何かに入る」ではなく、自分で納得して保険を選べるようになります。
まずは前提として押さえるべき公的保険
フリーランスの保険を考えるとき、多くの人がいきなり民間の医療保険や就業不能保険から検討しがちです。しかし、その前に必ず押さえておきたいのが、公的な医療保険と年金の仕組みです。
このパートでは、国民健康保険や国民年金など「土台になる制度」を整理します。ここを理解しておくと、「どこから先を民間保険で補えばよいのか」が見えやすくなります。
国民健康保険・任意継続など医療保障の土台
独立して会社を退職すると、会社の健康保険からは原則として抜けることになります。その後、次のいずれかの方法で医療保険に加入するのが一般的です。
- 住民票のある市区町村の国民健康保険に加入する
- 退職した会社の健康保険を任意継続して加入し続ける
- 家族の健康保険の扶養に入る
いずれの場合も、病院での自己負担は多くの人が三割で、公的な高額療養費制度も利用できます。ただし、フリーランスの場合は保険料を自分で全額負担することになり、前年の所得によって金額が変わります。
任意継続と国民健康保険のどちらが有利かは、保険料や扶養の条件によって変わるため、一度シミュレーションしてから選ぶとよいでしょう。重要なのは、「とりあえず何かに入る」ではなく、「どのパターンが自分の生活に合っているか」を検討することです。
国民年金と老後資金のベースになる部分
年金についても、会社員からフリーランスになると仕組みが変わります。会社員は国民年金に加えて厚生年金にも加入しているため、老後に受け取れる年金額は二階建て構造になっています。
一方、フリーランスは原則として国民年金のみです。保険料は定額で分かりやすいものの、その分、老後の公的年金だけでは生活費を賄いきれない可能性が高くなります。
その不足分を補う方法として、例えば次のような選択肢があります。
- 国民年金に上乗せする付加年金を利用する
- 国民年金基金や個人型確定拠出年金を活用する
- 長期の積立投資や貯蓄を行う
ここでのポイントは、「老後のことを今から完璧に決める」ことではなく、「公的年金だけでは不足しやすい」という前提を理解しておくことです。この認識があるかどうかで、保険や資産形成の判断が大きく変わります。
失業手当がないフリーランスと共済・積立の位置づけ
会社員であれば、失業したときに雇用保険から失業給付を受け取ることができます。しかし、フリーランスは雇用保険の対象外であり、「仕事が減った」「案件が途切れた」といった状況になっても、公的な失業手当はありません。
その代わりに、フリーランスは次のような形で「仕事が無い期間」に備える必要があります。
- 生活費の数か月分を生活防衛資金として貯めておく
- 小規模企業共済や個人事業主向けの積立制度を活用し、将来の退職金のような役割を持たせる
- 事業の柱を複数用意し、特定の取引先に依存しすぎないようにする
ここで伝えたいのは、「失業手当の代わりになる魔法の保険はない」という現実です。その上で、「貯蓄や積立と保険をどう組み合わせるか」を考えることが大切になります。
仕事中のケガに備える「労災保険(特別加入)」とは
公的な医療保険と年金は、フリーランスでも基本的には誰もが加入する土台となる制度です。ここからは、その上に重ねる形で検討したい「仕事中のケガ」に備える仕組みとして、労災保険の特別加入を取り上げます。
これまで労災保険は「会社員だけのもの」という印象が強く、フリーランスには関係がないと考えられてきました。しかし、近年の制度改正により、一定の条件を満たすフリーランスも労災保険に加入しやすくなっています。このパートでは、その概要と対象になる人のイメージを整理します。
通常の労災保険とフリーランスの関係
労災保険は、本来「労働者を雇っている事業主」が加入する保険です。会社員が仕事中や通勤中にケガや病気になった場合、治療費や休業中の補償、後遺障害や死亡時の給付などが、この労災保険から支払われます。
一方で、フリーランスは法律上の「労働者」に当てはまらないことが多く、原則として労災保険の対象外です。そのため、同じように現場で働いていても、立場によって補償の有無が変わるというギャップが生まれていました。
このギャップを埋めるために用意されているのが、「労働保険の特別加入」という仕組みです。一定の条件を満たすフリーランスや一人親方などが、労働者と同じように労災保険の補償を受けられるようにするための制度だと考えるとイメージしやすいでしょう。
労働保険特別加入制度の仕組みと対象になるフリーランスの条件
特別加入制度を利用して労災保険に入る場合、基本的な流れと考え方は次の通りです。
- フリーランス本人は「事業主」の立場だが、一定の条件を満たすと労災保険に特別に加入できる
- 加入の窓口は、厚生労働大臣の認可を受けた労働保険事務組合などの「特別加入団体」が担う
- 団体がまとめて労働基準監督署に手続きを行うため、個人で役所に出向いて申請する必要はない
対象となるフリーランスの条件は、業種や働き方によって多少異なりますが、おおまかには次のようなイメージです。
- 元請けやクライアントから業務委託を受けて、継続的に仕事を行っている
- 従業員を雇っていない、または雇っていても一定の規模以下である
- 業務の内容が、特別加入を受け付けている団体の対象業務に含まれている
自分が対象になるかどうかは、加入を検討している団体の案内ページを確認するのが確実です。「建設現場で作業する一人親方」「現場で撮影を行うカメラマン」「客先常駐が多いエンジニア」など、現場に出る機会が多い人ほど対象になりやすい傾向があります。
労災保険で補償されるケガ・病気・死亡の範囲
特別加入を利用して労災保険に入った場合、補償される内容の基本的な考え方は、従業員向けの労災保険と大きく変わりません。主な対象は次のような場面です。
- 仕事中のケガや事故
- 仕事に関連する病気
- 業務に伴う移動中の災害
- 急激で予期できない外的な原因による負傷
- 死亡または後遺障害が残った場合の遺族補償や年金
具体的には、治療費に相当する療養補償給付、働けない期間の休業補償給付、障害補償給付や遺族補償給付などが支払われる可能性があります。
ここで重要なのは、「どこまでが仕事に関連するケガと見なされるのか」という線引きです。自宅兼事務所での転倒や、取材や打ち合わせの移動中の事故など、グレーに感じる場面も少なくありません。判断に迷うケースでは、加入している団体や専門家に相談しながら進めることになります。
給付基礎日額と保険料の決まり方のイメージ
労災保険の保険料や給付額は、「給付基礎日額」と呼ばれる金額を基準に計算されます。これは、ざっくり言うと「一日あたりいくらの収入がある前提で補償するか」を決める指標です。
特別加入の場合、多くの団体では次のような金額帯から選べるようになっています。
- 給付基礎日額 三千五百円
- 給付基礎日額 五千円
- 給付基礎日額 一万円
- 給付基礎日額 二万円前後 など
給付基礎日額が高いほど、ケガをしたときに受け取れる給付額は多くなりますが、その分保険料も高くなります。目安としては、次のようなステップで考えるとよいでしょう。
- 現在の月間の手取り収入をざっくり把握する
- 一か月働けなくなった場合、最低限いくらあれば生活を維持できるかを計算する
- その金額を三十で割り、一日あたりの必要額に近い給付基礎日額を選ぶ
細かな数字は加入する団体や業種の保険料率によっても変わるため、実際に見積もりを取りながら無理のないラインを探していくのがおすすめです。
フリーランスが労災保険に加入するメリット・デメリット
ここからは、労災保険に特別加入することのメリットとデメリットを整理します。制度の仕組みが分かっても、「自分にとって本当に必要かどうか」は別の問題です。
このパートでは、「仕事中の事故をどこまで保険でカバーするか」という視点から、費用と安心感のバランスを考える材料を用意していきます。
「仕事中の事故は自己責任ではない」状態をつくれるメリット
フリーランスが労災保険に加入する最大のメリットは、「仕事中の重大な事故が起きても、すべて自己責任で背負い込まなくてよい」状態をつくれることです。
具体的には、次のような安心につながります。
- 高額な治療費や入院費が発生しても、原則として全額または大部分が労災保険から支払われる
- 長期間働けなくなった場合でも、給付基礎日額をもとに休業補償給付を受け取れる
- 後遺障害が残ったり、万一死亡した場合にも、本人や遺族に一定の給付が行われる
フリーランスは「代わりがいない働き手」であることが多く、一度大きな事故に遭うと、仕事と生活の両方が一気に立ち行かなくなるリスクがあります。労災保険は、その最悪の事態に対して国の制度として備えておける点が大きな意味を持ちます。
保険料負担や手続きにかかるコスト・デメリット
一方で、労災保険の特別加入には当然コストや制約もあります。代表的なものは次の通りです。
- 保険料は全額自己負担であり、給付基礎日額を高く設定するほど負担も大きくなる
- 特別加入団体への組合費や年会費が必要になるケースがある
- 業務と無関係なケガや持病の悪化など、補償の対象外となるケースもある
- 年に一度の更新手続きや、収入状況の申告など、一定の事務作業が発生する
これらの負担を踏まえた上で、「もし労災に入らなかった場合、どこまでリスクを自分の貯蓄でカバーできるか」を考えることが大切です。その比較の中で、「保険料を払ってでも備えておきたい」と感じるかどうかが判断の分かれ目になります。
どんな人は「ぜひ入っておきたいか」の目安
労災保険の特別加入は、フリーランスであれば誰にとっても全く同じ重要度というわけではありません。特に加入を検討したいのは、次のようなタイプの人です。
- 建設業や設備工事、配送など、身体を使う現場作業が多い
- 客先常駐や出張、撮影、取材など、移動の頻度が多い
- 高所作業や危険物を扱うなど、事故が起きたときのダメージが大きくなりやすい仕事をしている
- 家族を養っており、長期間働けなくなるとすぐに生活が行き詰まりやすい
- 貯蓄がまだ十分ではなく、大きな医療費や収入減を貯金だけでカバーするのが難しい
逆に、完全に在宅のデスクワークで、当面の生活費をまかなえる貯蓄もある人は、他の保険や貯蓄を優先するという判断もあり得ます。自分の仕事内容と資産状況を踏まえて、優先度を見極めていきましょう。
フリーランスが労災保険に加入するための手続き
制度の必要性を理解しても、「手続きが難しそうで後回しにしてしまう」という声は少なくありません。このパートでは、実際に労災保険の特別加入を申し込むときの流れを、できるだけシンプルに整理します。
申し込みの窓口や必要書類のイメージを持っておくことで、「面倒そう」という漠然とした不安を減らし、「やると決めたらすぐ動ける」状態を目指します。
どこに申し込むのか:特別加入団体を通す理由
フリーランスが労災保険に特別加入する場合、基本的には自分で労働基準監督署に行って手続きすることはありません。代わりに、次のような「特別加入団体」を通じて申し込みます。
- 業種別の労働組合や業界団体が運営する労働保険事務組合
- フリーランス向けの共済や保険サービスを提供している民間団体
- 一人親方向けの労災特別加入窓口を備えた組合 など
団体を通すことで、加入申請や保険料の納付、各種給付金の請求手続きなどをまとめてサポートしてもらえるのが大きなメリットです。その一方で、団体ごとに対象業種や年会費、提供している付帯サービスが異なるため、自分の仕事に合った団体を選ぶ必要があります。
実際の申し込みステップと必要書類
実際の申し込み手順は団体によって多少異なりますが、一般的な流れは次のようなイメージです。
- 加入を希望する団体を選び、問い合わせや資料請求を行う
- 加入申込書に氏名、住所、業種、事業内容、給付基礎日額などを記入する
- 事業を行っていることが分かる書類(開業届の控え、業務委託契約書の写しなど)を用意する
- 団体に書類一式を提出し、初回の保険料や会費を支払う
必要書類はあらかじめ案内に目を通しておくとスムーズです。オンラインで申し込みできる団体も増えており、郵送や対面での手続きに比べて手間が少なくなっています。
加入完了までの流れと注意しておきたいポイント
書類の提出と保険料の支払いが完了すると、団体から加入手続きが進められ、労働基準監督署での受理を経て特別加入が成立します。保険証や加入証明書が手元に届くまでの期間は、団体や申請のタイミングによって異なります。
注意しておきたいポイントは次の通りです。
- 加入が認められるのは原則として申請以降の期間であり、過去の事故にさかのぼって補償を受けることはできない
- 保険料は原則として年度単位で計算されるため、途中解約の取り扱いや返戻の有無も確認しておく
- 住所や事業内容が変わった場合は、団体への届出が必要になる
「いつから補償が始まるのか」「どの時点で安心して現場に出られるのか」を事前に確認しておくことで、加入後のギャップを減らせます。
病気やケガで働けなくなったときに備える「所得補償系」の保険
ここまでで、「仕事中のケガ」に対する備えとしての労災保険を見てきました。ただし、フリーランスにとってリスクになるのは、仕事中の事故だけではありません。
このパートでは、病気や私生活でのケガなど、労災保険の対象外となるケースで収入が途絶えるリスクに備える「所得補償系」の保険について整理します。労災保険とどう組み合わせるかを考えるうえでも重要なパートです。
所得補償保険・就業不能保険の仕組みと選び方
所得補償保険や就業不能保険は、病気やケガで働けなくなったときに、一定期間、毎月決まった額の給付金を受け取れるタイプの保険です。会社員であれば健康保険から傷病手当金が支給される場合がありますが、フリーランスにはそれがないため、この種の保険が「民間版の傷病手当金」のような役割を果たします。
商品によって細かな条件は異なりますが、選ぶときにチェックしておきたいポイントは次のようなものです。
- どのような状態になったら給付の対象になるのか(就業不能の定義)
- 給付が始まるまでの待期期間と、給付が続く最長期間
- 毎月の給付額と、保険料とのバランス
- 免責となるケースや、既往症に関する取り扱い
「どんなリスクにどこまで備えたいか」を明確にしてから商品を比較すると、加入の必要性や適切な保障額が見えやすくなります。
公的制度ではカバーしきれない部分
フリーランスであっても、公的な医療保険に加入していれば、病院での治療費の自己負担は多くの人が三割で済みます。また、高額療養費制度を使えば、ひと月あたりの自己負担額にも上限が設けられています。
ただし、公的制度でカバーされるのはあくまで「医療費」の部分です。長期入院や療養で仕事ができなくなった場合の「収入の減少」は、自分で何とかしなければなりません。
具体的には、次のようなギャップが生まれやすくなります。
- 治療費は何とかなるが、その間の生活費や家族の生活費が賄えない
- 長期療養後のリハビリ期間中も、十分に働けず収入が不安定になりやすい
- 精神疾患など、回復までに時間がかかる病気では、貯蓄だけでは持ちこたえにくい
このギャップを埋める選択肢の一つが、所得補償系の保険です。貯蓄と保険をどう組み合わせるかを考えることで、「治療費は公的制度」「生活費の一部は保険」といった役割分担を設計できます。
労災保険と所得補償系保険の役割分担
労災保険と所得補償系保険は、どちらも「働けないリスク」に備えるものですが、カバーする範囲と性質が少し異なります。ざっくり整理すると次のようなイメージです。
| 労災保険 | 仕事中や業務に関連するケガや病気を、公的制度として手厚く補償する |
| 所得補償系保険 | 業務外の病気やケガも含めて、働けない期間の収入減少を民間保険でカバーする |
そのため、リスクが高い現場作業をしている人は「まず労災保険を検討し、その上で所得補償系保険をどう組み合わせるか」を考える流れが自然です。逆に、在宅のデスクワークが中心であれば、「労災よりも所得補償に比重を置く」という選択肢もあり得ます。
大事なのは、「どちらか一方で全てをカバーしよう」とするのではなく、自分の働き方に合わせて役割分担を設計することです。
取引先や家族を守るためのその他の保険
ここまでで、「自分自身のケガや病気」に関する保険を中心に見てきました。しかし、フリーランスは自分だけでなく、取引先や家族、住まいといった周囲の存在にも責任を負っています。
このパートでは、業務上のトラブルや万一のときに家族を守るために検討したい、その他の保険について整理します。すべてに入る必要はありませんが、「自分には関係ない」と切り捨てる前に、一度は目を通しておく価値があります。
業務上のトラブルに備える賠償責任保険
賠償責任保険は、業務の中で第三者に損害を与えてしまった場合に、その損害賠償金の一部または全部を補償してくれる保険です。
フリーランスの場合、次のような場面が想定されます。
- 納品したシステムや制作物の不具合により、クライアントに損害を与えてしまった
- 取材や撮影の現場で設備を破損してしまい、修理費を請求された
- 管理していた個人情報や機密情報が外部に漏洩し、損害賠償を求められた
こうしたトラブルは、発生頻度こそ高くないかもしれませんが、ひとたび起きると賠償額が大きくなりやすいのが特徴です。自分の業務がどの程度の賠償リスクを持っているかを見極めたうえで、必要に応じて賠償責任保険を検討するとよいでしょう。
家族がいるフリーランスのための生命保険
扶養家族がいるフリーランスにとって、万一自分が亡くなってしまった場合の家族の生活は大きなテーマです。公的な遺族年金だけでは、住宅ローンや教育費、日々の生活費を十分にまかなえない可能性が高くなります。
そこで選択肢になるのが、次のような生命保険です。
- 一定期間だけ大きな保障を持てる定期保険
- 死亡したときに毎月の給付金として受け取れる収入保障保険
必要な保障額は、残っている住宅ローンの有無や、子どもの人数と年齢、配偶者の収入などによって変わります。「自分に何かあったとき、家族にどのくらいの生活費を残したいか」を起点に、必要に応じて検討していきましょう。
自宅兼事務所の火災・地震リスクに備える保険
自宅で仕事をしているフリーランスの場合、住まいは生活の場であると同時に仕事場でもあります。火災や水害、地震などで住まいがダメージを受けると、生活と仕事の両方が一度に止まってしまう可能性があります。
そのため、次のような視点で火災保険や地震保険を見直しておくと安心です。
- 自宅兼事務所として使用している場合、現在の保険で仕事用の設備や機材も補償対象になっているか
- ノートパソコンや撮影機材など、高額な仕事道具がある場合、それらの補償をどう確保するか
- 万一住めなくなった場合の一時的な住居費用や、事業再開までの費用をどうまかなうか
すべてを保険でカバーする必要はありませんが、「自宅が使えなくなったときに、何がどこまで補償されるのか」を一度棚卸ししておくと、いざというときの不安を減らせます。
結局どの保険から優先して入るべきか
ここまで多くの保険の種類を見てくると、「結局どれから入ればいいのか分からない」と感じるかもしれません。このパートでは、フリーランス初心者が優先順位をつけるための考え方を整理します。
目的は、「万人にとって正解の組み合わせ」を提示することではなく、「自分の状況に合わせて取捨選択できる軸」を用意することです。
「最低限これだけは押さえたい」マストな保険セット
フリーランスとして働くうえで、まず検討したい保険の優先度を大雑把に整理すると、次のような順番になります。
- 公的な医療保険と年金への確実な加入
- 仕事中のケガや事故のリスクが高い人は、労災保険の特別加入
- 病気や業務外のケガで働けなくなったときに備える所得補償系保険
この三つを軸にしたうえで、「賠償責任保険」「生命保険」「火災保険などの住まいの保険」を、自分の状況に応じて足していくイメージです。
まずは、「自分の仕事と生活に照らすと、この中で絶対に欠かせないのはどれか」「今すぐには要らないが、収入が安定してきたら検討したいものはどれか」を分けてみるところから始めてみるとよいでしょう。
生活・家族構成・業種別に変わるプラスαの保険
プラスαの保険は、生活環境や家族構成、業種によって必要性が変わります。いくつか代表的なパターンを挙げると次の通りです。
| 小さな子どもがいる場合 | 生命保険や収入保障保険の優先度が高くなりやすい |
| 高額な機材を使うクリエイターやエンジニアの場合 | 賠償責任保険や、機材の破損に備える補償のニーズが高い |
| 持ち家で自宅兼事務所として使っている場合 | 火災保険や地震保険の補償範囲を、仕事道具も含めて見直しておきたい |
状況が変われば、必要な保険も変わります。一度に完全な形を目指すのではなく、「今の自分にとって優先度が高いものから順番に整えていく」というスタンスで考えると、現実的で続けやすくなります。
保険料の総額をどう決めるか
どれだけリスクを意識しても、保険料に使えるお金には限りがあります。そこで重要になるのが、「保険料として毎月いくらまでなら無理なく支払えるか」という上限を決めることです。
目安としては、次のような流れで考えてみてください。
- 現在の手取り収入と毎月の固定費、生活費を洗い出す
- 生活防衛資金としてどの程度の貯蓄をキープしたいかを決める
- そのうえで、毎月のキャッシュフローから保険に回せる金額の上限を決める
その枠の中で、「このリスクには保険で備える」「このリスクは貯蓄で受け止める」といった線引きをしていくイメージです。保険料を先に決めてしまうことで、「不安だからといって保険を増やしすぎ、気付いたら家計を圧迫していた」という状態を防ぎやすくなります。
保険を選ぶ前に整理しておきたい自分の状況
ここまでの内容を、自分の現状に落とし込んでいくフェーズです。同じ「フリーランス初心者」でも、収入や貯蓄、家族構成、仕事の内容が違えば、選ぶべき保険も変わります。
このパートでは、保険商品を選ぶ前に整理しておきたい情報を三つの切り口から確認します。紙やノートアプリに書き出してみるつもりで読み進めてみてください。
収入・貯蓄・固定費から「許容できるリスク」を把握する
まずは、お金の面から自分の「許容できるリスクの大きさ」を確認します。次のような項目を書き出してみましょう。
- 平均的な月間の手取り収入
- 家賃やローン、光熱費、通信費などの固定費
- 食費や日用品、交通費などの変動費の目安
- 現在の貯蓄額と、そのうち「生活防衛資金」として使いたい金額
数か月収入が途絶えても耐えられるだけの貯蓄があれば、保険でカバーすべき範囲は比較的狭くて済みます。逆に、貯蓄が少ない場合は、「短期的な所得減少を保険で補う」意味合いが強くなります。
数字をざっくりでも把握することで、「どの程度の給付額や期間があれば安心できるか」が具体的に見えてきます。
仕事の内容や働き方から「遭遇しやすいリスク」を洗い出す
次に、自分の仕事そのものからリスクを洗い出します。次のような視点で棚卸ししてみてください。
- 現場作業や肉体労働がどの程度含まれているか
- 客先訪問や出張、現場での立ち合いなど、移動の頻度はどれくらいか
- パソコンやインターネットに強く依存しているか、代替手段はあるか
- ミスやトラブルがそのまま大きな損害賠償につながるような業務かどうか
これらを見ていくと、「自分は仕事中のケガよりも長時間のデスクワークによる体調不良のリスクが高い」「賠償リスクは低いが、収入が止まると生活が厳しい」など、自分ならではの傾向が見えてきます。
その結果として、「労災保険を厚めにするのか」「所得補償系を重視するのか」「賠償責任保険を優先するのか」といった方向性が定まりやすくなります。
家族・ライフプランから必要な保障額をざっくり見積もる
最後に、家族やライフプランの観点から必要な保障を考えます。具体的には、次のような点を整理してみましょう。
- 現在の家族構成と、今後のライフイベントの予定
- 住宅ローンや教育費など、今後長期的に発生する大きな支出
- 配偶者の収入や、実家からの支援の有無
例えば、小さな子どもがいて住宅ローンも残っている場合、自分に何かあったときの影響は非常に大きくなります。このようなケースでは、生命保険や収入保障保険の優先度が高くなりやすいでしょう。
逆に、単身で実家暮らしであれば、必要な保障額はそれほど大きくないかもしれません。誰を、どのくらいの期間守りたいのかを具体的に思い描くことで、保険選びが「なんとなくの不安」ではなく「具体的な数字に基づく判断」に近づきます。
まとめ:フリーランス初心者が「今」決めておきたいこと
フリーランスとして働くということは、自由と引き換えに、自分の身を守る仕組みも自分で選び取るということでもあります。
本記事では、
- 会社員時代とフリーランスで変わる「守られ方」の違い
- 公的保険という土台の上に、労災保険や所得補償系保険をどう重ねるか
- 賠償責任保険や生命保険など、取引先や家族を守るための選択肢
- 自分の状況を整理し、保険の優先順位を決めるための考え方
といったポイントを整理してきました。
最後にもう一度だけ、軸になる考え方をまとめると次の通りです。
- まずは、公的な医療保険と年金の仕組みを正しく理解する
- その上で、「仕事中のケガ」「病気や私生活でのケガ」「賠償」「家族の生活」といったリスクを分けて考える
- 収入と貯蓄、家族構成、仕事内容を踏まえて、「どのリスクを保険で、どのリスクを貯蓄で受け止めるか」を決める
完璧な形を一度で整える必要はありません。今日決められるのは、「どのリスクから優先して対処するか」という順番です。
この記事をきっかけに、自分と大切な人を守るための保険について、一歩踏み込んで考えてもらえたなら幸いです。
監修者からメッセージ

一人親方労災保険組合顧問覺正 寛治かくしょう かんじ
一人親方に安心安全を提供したい
静岡大学法経学科を修業後、1977年4月に労働省(現厚生労働省)入省。2002年に同省大臣官房地方課課長補佐(人事担当)、2004年に同省労働金庫業務室長を歴任し、2007年に同省鹿児島労働局長。退官後、公益財団法人国際人材育成機構の常務理事、中央労働金庫の審議役を経て、2017年4月に現職。
厚生労働省では「地下鉄サリン事件」「阪神淡路大震災」「単身赴任者の通勤災害」の労災認定や「過労死認定基準」の策定などを担当し、労災保険制度に明るい。一人親方労災保険組合顧問としては、一人親方が安心安全に働けるよう、これまで培った労災関係業務や安全衛生業務の経験を生かして労災保険特別加入制度の普及や災害防止活動に取り組んでいる。

一人親方労災保険組合の労災保険特別加入手続き対象地域
| 北海道 | 北海道、青森 |
|---|---|
| 東北 | 宮城、岩手、秋田、山形、福島 |
| 関東 | 東京、神奈川、千葉、埼玉、群馬、茨城、栃木、静岡、山梨 |
| 中部 | 長野、新潟、富山、岐阜、愛知 |
| 北陸 | 石川、福井 |
| 関西 | 大阪、兵庫、京都、奈良、和歌山、滋賀、三重、鳥取、岡山 |
| 中国 | 広島、山口、島根 |
| 四国 | 愛媛、徳島、香川、高知 |
| 九州 | 福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島 |
| 沖縄 | 沖縄 |



