フリーランスは労災保険に入れる? 特別加入について解説
公開日 / 2024.3.26
働く上で怖いのが想定外のケガや病気です。仕事によって受けたケガや病気であれば労災保険で補償されます。
原則として労災保険の対象は「会社に雇われている社員」ですが、フリーランスは特定の会社に雇われているわけではありません。
そのため、社員とは違いフリーランスは労災保険の対象外となり、仕事中にケガを負ったり病気になったりしたとしても労災保険では補償されないのです。
しかし、フリーランスでも労災保険に入る方法が用意されています。それが労災保険の特別加入です。
今回は労災保険特別加入について、入り方やかかる料金など詳しく説明していきます。
フリーランスでも労災に入れる労災特別加入とは?
フリーランスでも、労災保険に特別加入できる場合があります。
原則として労災保険は、仕事が原因のケガや病気から社員を守るために雇用主が入るものです。
そのため、会社と直接の雇用関係にないフリーランスは、労災保険に加入できません。
しかし、特定のフリーランスは労災保険への特別加入が認められています。
労災保険の特別加入については、下記の記事でも詳しく解説していますのでぜひ参考にしてください。
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労災保険の特別加入と通常加入の違いとは? 具体的な相違点を徹底解説
業種は限定される! 労災保険に特別加入できるフリーランス
すべてのフリーランスが労災保険に特別加入できるわけではありません。労災保険に特別加入できるのは、一定の要件を満たした特定の業種だけです。
労災保険に加入できるフリーランスは一人親方やその他の自営業者と、特定作業従事者の大きく分けて2つあります。
一人親方など
第一に挙げられる業種が、一人親方やその他の自営業者です。一人親方とは、労働者を使用せずに特定の事業をおこなう人のことを指します。
「特定の事業」には建設業や林業が含まれます。また、原動機付自転車や自転車を使用する運送事業、歯科技工士がおこなう事業なども対象です。
危険が伴うことが少なくない職に就く人たちにも一定の保障が必要でしょう。そのため一人親方には、自己負担で労災保険に特別加入することが認められています。
また、労災保険に加入していないと入れない現場もあるため、労災保険に特別加入をしないと業務の幅も狭まってしまいます。
出典:厚生労働省「特別加入制度のしおり(一人親方その他の自営業者用)」
以下の記事では、一人親方の請求書の書き方について解説しているのでぜひ参考にしてください。
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一人親方の請求書の書き方は? 人工代など17項目を見本で解説
特定作業従事者
第二に挙げられる業種が、特定作業従事者です。
特定作業従事者とは、建設業や林業などの危険が伴う仕事でなくても特別加入できる業種についている人を指します。
特定作業従事者には、具体的に以下の9業種が挙げられます。
- 特定農作業従事者
- 指定農業機械作業従事者
- 国又は地方公共団体が実施する訓練従事者
- 家内労働者及びその補助者
- 労働組合等の一人専従役員(委員長等の代表者)
- 介護作業従事者および家事支援従事者
- 芸能関係作業従事者
- アニメーション制作作業従事者
- ITフリーランス
この中で「芸能関係作業従事者」と、「アニメーション制作作業従事者」は令和3年4月1日から、「ITフリーランス」は令和3年9月1日からそれぞれ新たに特定作業従事者に追加されました。特別加入できる業種は年々拡大してきています。
出典:厚生労働省「特別加入制度のしおり(特定作業従事者用)」
フリーランスが労災保険に入っていないとどんなときに困る? 事例3つを紹介
フリーランスが労災保険に加入していないと困ることは、具体的に以下の3つが挙げられます。
- 怪我を負ったり病気になったりしたとき
- 身体に障害が残ったとき
- 本人が死亡したとき
労災保険がどんな時に役立つか知って、実際に労災保険に加入すべきか考えてみましょう。
怪我を負ったり病気になったりしたとき
労災保険に加入していれば、仕事が原因のケガや病気になったときにも補償されます。また、休んでいる間も一定額の収入が補償されるので、長期に休む場合も安心です。
もしも労災保険に加入していなければ、ケガや病気の治療費も、休んでいる間の収入も一切補償されません。
ケガや病気の程度が重ければ、治療費は高くなってしまいます。また休んでいる間の収入もなければ、治療にも専念できません。
身体に障害が残ったとき
仕事が原因のケガや病気から、障害が残ってしまった場合も補償されます。残った障害の程度によって一時金や年金を受け取れます。
さらに、障害の程度が重く介護が必要になったときも、介護費用が給付されるため、働けなくなってしまっても安心です。
労災保険に加入していない場合、今後働けないような障害が残ってしまっても、補償されません。
本人が死亡したとき
労災保険は仕事が原因による本人の死亡も補償してくれます。本人が死亡した場合、遺族の人数や給付基礎日額に応じて年金を受け取れます。
もし、亡くなった本人の収入で生計を立てていた場合も、年金や一定額の葬祭費が支給されるため、遺族が生活に困ることはありません。
労災保険に入っていなければ、遺された家族の生活は苦しくなってしまいます。
また、貯金がないために、お葬式を挙げられないといったことにもなりかねません。
フリーランスは特別加入団体から労災保険に加入する
フリーランスが労災保険に特別加入する場合は、特別加入団体を通じて加入するのが、一般的な方法です。
労災保険は個人で加入するものではなく、会社が社員のために費用を負担して加入するものです。
このように、労災保険は雇用関係が前提となっており、保険をかけられる個人が労災保険に直接申し込むことはできません。
労災保険の特別加入では、特別加入団体を会社、会員を社員とみなすため、労災保険への加入ができるようになっています。
フリーランスが労災保険の特別加入にかかる料金
フリーランスの労災保険特別加入にかかる料金は主に2つあります。
以下にて詳しく解説していきましょう。
労災保険料以外の費用
加入団体が違っていても労災保険料の金額は変わりませんが、労災保険料以外の費用は加入団体ごとに変わります。
代表的なものとしては入会金や組合費が挙げられますが、証明書の再発行などを依頼する際や、労災手続きをおこなう際に事務手数料などが掛かる場合があります。
問合せをしないとわからないこともありますので、加入を検討されている加入団体に確認をしてみましょう。
労災保険料
労災保険料はどの加入団体でも払うべき金額は同じです。
保険料は以下の式で決まります。
■給付基礎日額×365日×労災保険料率=年度分の労災保険料
保険料率は業種によって変わり、自分の業種の保険料率を当てはめるだけで計算できます。
労災保険料は給付基礎日額によって決まります。給付基礎日額とは、労災保険の給付の基礎となる基準額のことです。
給付基礎日額が多いほど給付は増えますが、納めるべき保険料も増えるので注意しましょう。給付基礎日額が決まるのは労災保険の加入時です。
特別加入をするときに、所得水準に見合った適正な金額を3,500~25,000円の16段階から選択し、労働局長の承認を経て決定します。
給付基礎日額は任意で設定できますが、高額な給付基礎日額を希望の場合は所得を証明する書類の提出を求められることがあります。また、給付基礎日額の下限が設定されている場合もありますので、加入を検討している団体に確認してみましょう。
フリーランスにおける労災保険の特別加入団体の選び方
特別加入団体は以下の3つに違いがあります。
- 料金や割引
- 特典
- アフターサービス
なお、加入団体ごとに補償内容の違いはありません。
料金や割引制度で選ぶ
加入団体ごとにもっとも違うのが、入会費や組合費などの料金です。中には入会費が無料の特別加入団体もあります。
また、割引制度が用意されている特別加入団体も少なくありません。たとえば、複数人で申し込んだ場合に一定金額が割引されるなどです。
しかし、料金が安くても労災申請をした際に、高額な事務手数料を取る団体もあるので注意が必要です。
入会特典で選ぶ
加入団体によっては、組合員に対する福利厚生や施設優待が用意されているところもあります。
施設優待は加入団体ごとにさまざまなものが用意されています。たとえば、レジャー施設でサービスを受けられたり、レストランなどの飲食店で使えるクーポンが貰えたりなどです。
また、国民保険組合に加入できる特別加入団体もあります。国民保険組合に加入すると、通常の国民保険より保険料が安くなることがあります。
しかし、これらは労災保険の本質的な部分ではありません。税金や保険はともかく、施設優待のみで加入団体を選ぶのはやめたほうがいいでしょう。
アフターサービスの充実度で選ぶ
加入団体のアフターサービスの充実具合も確認しておきましょう。
特に、相談できる提携社労士や弁護士がいるかは重要なポイントです。実際に労災が起きた場合に、相談できる専門家がいればスムーズに補償が下りる可能性が高くなるでしょう。
また、問い合わせたときに適切な回答が返ってくるかや、電話以外にもメールやチャットなどに対応しているかなども確認すべき項目です。
なお、一人親方が労災保険に特別加入する場合に知っておきたい、団体ごとの違いについては以下の記事で解説しています。
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一人親方労災保険の特別加入団体の選び方とは?団体ごとの違いを解説
フリーランスは労災保険に特別加入しよう
フリーランスでも、一定の要件を満たしていれば、自己負担で労災保険に特別加入できます。
労災保険に入っていれば、仕事が原因でケガを負ったり病気になったりしたときや、障害が残ったとき、本人が死亡したときに補償が下ります。
労災は気をつけていればいいというものではなく、誰が巻き込まれてもおかしくないものです。
令和3年度の労災の発生件数はおよそ15万件にも上ります。国内の労働人口は約7,000万人であるため、毎年500人に1人ほどが労災に巻き込まれている計算です。
労災保険に入っていなければ、労災に巻き込まれたときの損失は非常に大きいものとなります。日頃から労災に巻き込まれないように気をつけるのはもちろん、労災保険へ加入するようにしましょう。
出典:厚生労働省「令和3年 労働災害発生状況」
出典:総務省統計局「2022年(令和4年)労働力調査」
監修者からメッセージ
一人親方労災保険組合顧問覺正 寛治かくしょう かんじ
一人親方に安心安全を提供したい
静岡大学法経学科を修業後、1977年4月に労働省(現厚生労働省)入省。2002年に同省大臣官房地方課課長補佐(人事担当)、2004年に同省労働金庫業務室長を歴任し、2007年に同省鹿児島労働局長。退官後、公益財団法人国際人材育成機構の常務理事、中央労働金庫の審議役を経て、2017年4月に現職。
厚生労働省では「地下鉄サリン事件」「阪神淡路大震災」「単身赴任者の通勤災害」の労災認定や「過労死認定基準」の策定などを担当し、労災保険制度に明るい。一人親方労災保険組合顧問としては、一人親方が安心安全に働けるよう、これまで培った労災関係業務や安全衛生業務の経験を生かして労災保険特別加入制度の普及や災害防止活動に取り組んでいる。
一人親方労災保険組合の労災保険特別加入手続き対象地域
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