労災保険の特別加入と通常加入の違いとは? 具体的な相違点を徹底解説

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公開日 / 2023.7.19

労災保険には、通常加入特別加入がありますが、これらの違いが分からずに悩んでいる方は、多いのではないでしょうか。

そこで今回は、労災保険の通常加入と特別加入の具体的な違いを紹介します。いざというときに、冷静に対処するためにも、両者の相違点を正しく理解することが大切です

併せて、労災保険と混同されがちな雇用保険との違いについても解説しています。ぜひ最後までご覧ください。

労災保険特別加入制度の概要

労災保険は通常、国内において労働者として事業主に雇用され、賃金を受け取っている人を対象とした制度です。そのため、会社に雇用されていない個人事業主などは、労災保険に加入できません。

ただし、労働者以外でも、一定の要件のもとに労災保険に特別加入ができます。

特別加入制度は、業務の実態や災害の発生状況からみて、労働者に準じて保護することがふさわしいと見なされた場合に加入できる制度です。一人親方や中小事業主などが、特別加入できる対象となっています。

出典:厚生労働省「特別加入制度とは何ですか

労災保険の特別加入と通常加入の違い

労災保険の特別加入と通常加入の違い

ここからは、労災保険の特別加入と通常加入の違いを解説します。具体的な相違点は、上記の4つです。

①給付基礎日額の選択有無

1つ目の違いは、給付基礎日額を選択する必要があるか否かです。

前提として、給付基礎日額は、保険給付の額を算定する際に基礎となるもののことをいいます。つまり、給付基礎日額が高額になるほど、補償も手厚くなるのです。

会社員の場合、給付基礎日額を選ぶ必要はありません。直近の収入から自動的に算出されるからです。

一方の特別加入者は、自身で給付基礎日額を選択する必要があります。自身の収入状況などを考慮したうえで、選びましょう。

なお、給付基礎日額ごとの給付例は、以下の記事で詳しく解説しています。

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②補償内容

2つ目の違いは、補償内容です。具体的には、以下の3つに違いがあります。

  1. ボーナス特別支給金
  2. 休業補償
  3. 二次健康診断給付

ボーナス特別支給金

労災保険には、本体給付特別支給金の2種類があります。ボーナス(賞与)などの3カ月を超える期間ごとに支払われる賃金は、特別支給金の一部に反映される仕組みです。

会社員は、毎月の給与とは別にボーナスがあるので、ボーナス支給金が加算されます。

ただし、特別加入者の場合は、ボーナス支給金が加算されません。個人事業主は、ボーナスがないからです。

休業補償

怪我や病気で働けなくなると、休業補償を受けられます。ただし、労働者で休業中に会社から平均賃金の60%以上の所得補償を受けている場合は、休業補償を受けられません

特別加入者の場合は、労災が認められれば、休業補償を受けることが可能です。休業補償の額は、休業4日目以降1日につき、給付基礎日額の80%(休業補償給付60%+休業特別支給金20%)が支払われます。

出典:厚生労働省「休業補償の計算方法を教えてください

二次健康診断給付

会社員などの一般加入者は、定期健康診断(一次健康診断)で異常が見つかった際、二次健康診断特定保健指導を受けることが可能です。

ただし、特別加入者に関しては、二次健康診断給付が対象外となっています。特別加入者の健康診断の受診は、自主性に任されているからです。

出典:厚生労働省「労災保険二次健康診断等給付

③通勤災害の適用有無

最後に3つ目の違いは、通勤災害の適用有無です。

特別加入者であっても条件を満たせば、通勤災害の適用を受けられます。ただし、次の業種に該当する一人親方は、通勤災害の適用を受けられません

  • 個人タクシー業者、個人貨物運送業者
  • 漁船による自営漁業者

上記の業種に関しては、通勤業務の区切りがつかないからです。

出典:厚生労働省「特別加入制度のしおり(一人親方その他の自営業者用)

労災保険と雇用保険の違い

雇用保険は、労働者が失業したときなどに、再就職を促すための制度のことをいいます。これに対して労災保険は、負傷した労働者を保護するための制度です。

雇用保険と労災保険は、そもそもの目的が異なります。目的が違えば、給付の内容も別物です。

たとえば、雇用保険では以下の給付を受けられます。

  • 求職者給付(基本手当など)
  • 就職促進給付
  • 教育訓練給付
  • 雇用継続給付

基本手当は一般的に「失業手当」と呼ばれており、再就職するまでの間、経済的援助を受けることが可能です。

一方の労災保険は、以下の給付を受けられます。

  • 療養給付
  • 休業給付
  • 障害給付
  • 遺族給付
  • 傷病年金
  • 介護給付
  • 葬祭給付
  • 二次健康診断給付

なお、労災保険と雇用保険は総称して「労働保険」と呼ぶこともあるので、これを機に覚えておきましょう。

労災保険の特別加入と通常加入の違いを正しく理解しよう

今回は、労災保険の特別加入と通常加入の違いについて説明しました。

特別加入する方は、加入時に給付基礎日額を選ぶ必要があります。いざというときに、補償がどの程度必要なのか、シミュレーションしておくことが大切です。

また、労災保険は雇用保険と混同されがちですが、目的や給付内容に違いがあります。今一度、両者の違いを確認しましょう。

労災保険の未加入者で、特別加入の要件を満たしているのなら、特別加入することをおすすめします

監修者からメッセージ

一人親方労災保険組合 理事 古口仁

一人親方労災保険組合顧問覺正 寛治かくしょう かんじ

一人親方に安心安全を提供したい

静岡大学法経学科を修業後、1977年4月に労働省(現厚生労働省)入省。2002年に同省大臣官房地方課課長補佐(人事担当)、2004年に同省労働金庫業務室長を歴任し、2007年に同省鹿児島労働局長。退官後、公益財団法人国際人材育成機構の常務理事、中央労働金庫の審議役を経て、2017年4月に現職。

厚生労働省では「地下鉄サリン事件」「阪神淡路大震災」「単身赴任者の通勤災害」の労災認定や「過労死認定基準」の策定などを担当し、労災保険制度に明るい。一人親方労災保険組合顧問としては、一人親方が安心安全に働けるよう、これまで培った労災関係業務や安全衛生業務の経験を生かして労災保険特別加入制度の普及や災害防止活動に取り組んでいる。

一人親方労災保険組合の労災保険特別加入手続き対象地域

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