一人親方のメリット・デメリットとは? 独立前に知っておきたい点を解説

一人親方労災保険

更新日 / 2023.10.04

建設業界では、多くの一人親方が活躍しています。会社で経験を積んで、一人親方として独立を目指している方も多いのではないでしょうか。

一人親方には会社員にはないさまざまなメリットがありますが、無視できないデメリットも潜んでいます。このメリットとデメリットを見比べ、独立するかどうかを考えなければいけません。

この記事では、一人親方のメリットとデメリット、一人親方になったときにすべきことについて解説していきます。独立してから後悔しないためにも、ぜひ参考にしてみてください。

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一人親方労災組合

一人親方になるメリット8つ

一人親方になるメリット8つ

一人親方には、会社員では得られない8つのメリットがあります。具体的にどのようなメリットがあるのか、見ていきましょう。

古口 仁

一般社団法人一人親方労災保険組合 代表理事

古口 仁

勤め人である会社員と独立して働く一人親方では、当然働き方も異なってきます。一人親方は、会社員に比べると安定性がないといったデメリットもありますが、メリットも多く存在します。

最も大きなメリットは、自分自身の裁量の幅が広くなり、自由に働けるということです。いつどこで仕事をするのも自由で、上司も部下もいないという身軽さは会社員を経験している方からすれば、とても魅力的に感じるのではないでしょうか。

他にも定年がなく働けることや経費にできるものが増えることなども一人親方となるメリットになります。他にもメリットは多数あるため、次項から詳しく紹介していきます。

①雇われより単価が高い

雇われ職人に比べて、一人親方は高い単価で仕事を請け負えます。雇われ職人は会社の役職制度によって報酬が決まるため、頑張っても収入が頭打ちになりがちです。

対して、一人親方には会社員のような役職制度がありません。実績を積み重ね、元請けからの信用を勝ち取れば、その分仕事が増え、単価も上がりやすく収入が増加していきます。

差し引かれていた諸経費や利益分も報酬として受け取れるため、雇われより単価を上げやすいのがメリットの1つです。

②単価の交渉ができる

一人親方は自身で単価の交渉ができます。交渉がうまくいけば、単価を大幅に上げることが可能です

単価交渉を成功させるために、日頃から自分の価値を高めるようにしましょう。自分が貴重な人材であると認識してもらえれば、その価値相応の支払いが期待できます。

また、交渉の方法を学ぶことも大切です。ただお願いすれば良いというわけではなく、自分の強みをアピールし、どのようなメリットがあるのかをしっかり伝えられるようにしましょう。

③仕事を選べる

仕事を受けるかどうかを自分で決められるのも、一人親方のメリットです。

会社員の場合は、自分の判断で仕事を選ぶようなことはできません。そのため、会社や周りの都合で仕事を受けざるを得ないのが実情です。仕事の負荷を調整できないため、激務を強いられることも起こりえます。

一人親方は自分の裁量で仕事を選べるため、仕事量をコントロールできます。過負荷な状態を避ければ、無理なく働けるでしょう。その他にも、好ましくない現場を避けるという判断を自分でおこなえるのもメリットです。

④自由な働き方ができる

一人親方の働き方は、会社員のように決まっていません。ほどほどの仕事量に抑えて休日を増やす、資格の勉強をして次のキャリアにつなげるなど、自分の望むライフスタイルに働き方を合わせられます。必要とされれば、働く量を増やすことも可能です。

また、働く場所を選べるのも魅力です。会社員では思うように引っ越しできず、意に沿わない出張を強いられることも珍しくありません。一人親方なら、仕事がある限り働く場所も住む場所も自由に変えられます。

⑤さまざまなものを経費に計上できる

仕事に関わる支出を必要経費として計上できるのも、一人親方のメリットです。適切に経費申請をおこなえば、課税対象額を減らせるでしょう。

経費として計上できるものは多岐にわたり、下記のようなものが挙げられます。

  • 旅費
  • 運動費
  • 材料費
  • 消耗品費
  • 外注費
  • 交際費
  • 損害保険
  • 組合費
  • 租税公課
  • 家賃
  • 光熱費/通信費

ただし、経費が売上の8割を占めるなど、過剰な経費計上は税務署からチェックを受ける可能性が高くなります

一般的に、一人親方の経費は売上の3~5割とされているので、その範囲に納めるのが無難です。実態に沿った経費だけを計上するようにしてください。

⑥定年退職がない

一人親方には定年がないため、働く意欲や体力が続く限り、60代・70代でも働けます。実際、厚生労働省のアンケートに回答した一人親方のうち、60代は全体の31.7%、70代も10.1%という結果になりました

「仕事がないと生活にメリハリがない」「まだまだ自分のキャリアを磨いていきたい」など、さまざまな理由で定年後も仕事を望む人はいるでしょう。年金だけの生活と比べて、経済的なゆとりも生まれます。

長く仕事を続けられるのは、一人親方の大きなメリットです。

出典:厚生労働省「建設業一人親方の働く実態等に 関するアンケート調査結果 (平成30年度実施)

⑦上司がいないので気楽である

上司によるストレスがないのも、一人親方の良いところです。上司と関係が悪いと、ストレスを絶えず抱えてしまうことになります

時には攻撃的な上司からパワハラのような扱いを受け、仕事に悪影響を及ぼすこともあるかもしれません。いくら働きたい職場でも、人間関係が悪ければ苦痛を伴う仕事になってしまいます。

一人親方のように上司への気遣いが必要ない環境では、余計なストレスをためずに自分の仕事に注力できるでしょう

⑧従業員を雇わないので身軽である

基本的に、一人親方は従業員を雇用しません。そのため、一人親方は身軽に動けるのがメリットです。具体的には下記のような点で身軽といえます。

高額な固定費がかからない

一人親方は個人で事業をおこなうため、固定費を安く済ませられます。固定費は継続的に発生する費用で、売上に関わらず支払い続けるものです。

そのため、固定費は可能な限り抑えなければ、利益を圧迫し続けます。売上が少ないときには、資金繰りに苦しむことになるでしょう。

しかし、従業員を雇わない一人親方なら、毎月支払わなければいけない人件費がかかりません。従業員に貸与するスマホの通信費などの付随して発生するコストも必要なく、事務所代も自宅を使用するなどして節約できます。

結果的に、一人親方は高額な固定費に悩まされにくく、財務面でも精神面でも楽でしょう。

従業員を管理する必要がない

従業員の管理業務にわずらわされないのも、一人親方の気楽なところです。

従業員を雇用すると、たとえば勤怠管理・教育・指導・トラブル対応などの作業が発生します。従業員の管理は作業負荷が高く、自分の仕事に集中できなくなる可能性もある業務です

しかも、このような管理業務は直接利益を生むものではありません。管理業務が増えるほど、生み出せる利益は少なくなってしまいます。

一人親方は従業員を必要としないため、自分の仕事に注力できるのが魅力です。

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一人親方になるデメリット5つ

一人親方になるデメリット5つ

一人親方の仕事はメリットばかりではありません。高単価で自由な働き方ができる一方で、さまざまなデメリットもあります。デメリットを踏まえたうえで、一人親方になるべきかを考えましょう

一人親方のデメリットについて、具体的に解説していきます。

①収入が安定しない

毎月固定の収入が得られる会社員とは異なり、一人親方の収入は安定しません。繁忙期には好きなだけ仕事を受けられるかもしれませんが、閑散期は働きたくても働けない場合があります。経済状況にも左右され、突然仕事が途切れてしまうこともあるでしょう。

そのため、収入が安定しない事態に、日頃から備えておく必要があります。貯蓄を心がけ、資産を十分に用意しておきましょう。

また、仕事を紹介してもらえる人脈を開拓したり、日頃から求人をチェックしたりするなど、仕事が途切れないように努力することも大切です。

②確定申告をしなくてはいけない

一人親方は毎年、確定申告をしなければいけません。会社員であれば納税は会社にまかせておけばよかったのですが、一人親方は自分で申告する必要があります。

所得・経費・控除などを計算して資料を作成するのは、慣れていないと面倒です。場合によっては事務作業が負担となり、本業に支障をきたしかねません。

確定申告ソフトなどを利用するなどして、作業負荷を下げるなどの工夫をすると良いでしょう。また、費用はかかりますが、プロの税理士にまかせるのも一つの手です。

③融資・ローン・カードの審査が通りにくい

一人親方は融資が受けられない、ローンが組めない、カードが作れない、という事態に見舞われることがあります。なぜなら、経済的に長期的な安定が保証されていないため、審査が厳しくなる傾向にあるからです

必ずしも融資・ローン・カードの審査が通らないわけではありません。しかし、収入が安定している会社員と比べると、難しい場合があることは理解しておきましょう

④仕事を広げにくい

一人親方は仕事が限定され、広げにくい傾向があります。基本的に自分だけで作業をおこなうためです。一人でできる作業には限界があり、可能な作業量以上の仕事は引き受けられません

また、企業によっては個人事業主を受け入れないところもあります。一人親方だと、自分のしたい仕事ができないという事態も起こるかもしれません。

加えて、一人親方が仕事を得るには、過去の実績が必要です。そのため、実績のない新しい分野では、仕事を受注できない場合があるでしょう。

⑤大手と直接取引できない

大手企業との直接取引が難しいのも、一人親方のデメリットです。多くの場合、大手から仕事を請け負った企業が間に入ることになります。

そのため、大きな仕事を取れない、もしくはマージンが引かれて単価が安くなってしまう可能性があります

取引できるかどうかは企業によるため、必ずしも不可能というわけではありません。しかし、一人親方が大手企業から直接仕事を請け負う機会は、少ない傾向にあることは覚えておきましょう。

会社員から一人親方になったときに必要なこと

独立して一人親方になると、会社員時代には必要なかったさまざまなことをしなければいけません。具体的に何が必要か、順番に解説していきます。

仕事を得る努力

会社員と違い、一人親方は自分で仕事を見つける必要があります。実績を積めば取引先が増えると期待できますが、最初は自ら積極的に営業活動をおこなうことも想定しておきましょう

営業活動をする以外に、求人情報を調べて応募する方法もあります。インターネットなどで広く募集がかけられているため、倍率は高い傾向にありますが、手軽に応募できるのが特徴です。

また、周囲の知り合いに仕事を紹介してもらうという方法もあります。ライバルが少ないため、比較的仕事を獲得しやすいのがメリットです。人脈がない場合は、交流会やマッチングサービスなどで、新しくコネクションを作るようにしてみてください。

どのような方法であれ、一人親方は仕事を得るための努力が不可欠です。加えて、継続的な仕事につなげられるよう、一つひとつの依頼を確実にこなしていきましょう。

資金繰り

一人親方は、自分の力で資金繰りをしなければいけません。資金繰りを誤ると、手元に現金がなくなり、黒字にも関わらず廃業に追い込まれることもあります

特に、建設業は出金と入金のタイミングにズレが生じやすいとされているため、注意が必要です。

一人親方の場合、元請会社からの注文書が遅れると、請求書を発行するまで日数がかかります。請求書の発行後も、元請会社の締め日の関係で即入金というわけにはいきません。工事が終わって立替金がすでに発生していると、入金までの資金繰りが苦しくなります。

普段から貯蓄や資金調達をして現金を用意する、入出金をしっかり管理するなど、不測の事態に対応できるようにしておきましょう

作業車・工具などの用意

一人親方は仕事に必要なものは自分で用意しなければいけません。たとえば、工具などの備品や車両です。

必要なものはあらかじめそろえておくべきですが、加えてある程度の資金も準備しておきましょう。新しいものが必要になったり、用具に漏れがあったりしたときに調達できるようにするためです。

会社員と違って、仕事に必要なものを会社が用意してくれるということはありません。備品や工具などへの意識は欠かさずに持っておきましょう。

体調管理

体調管理も、一人親方にとって大事な業務です。一人親方は自分一人で働くため、万が一の代わりを用意できません。体調管理をおろそかにすると、病気で納期に遅れが出たり、仕事を受けられなくなったりする可能性があります

また、仕事量のコントロールも大切です。仕事を抱え込みすぎて体調を崩すと、利益と信用を損なうリスクがあります。

仕事の量を調整しながら、常に健康な状態でいられるよう、食事や睡眠に普段から気を遣うことが大切です。セルフチェックを怠らず、万全の体調を維持できるように努めましょう。

各種保険への加入

会社員から一人親方になるときには、各種保険への加入手続きが必要です。手続きが必要な保険を具体的に挙げてみますので、参考にしてください。

社会保険

会社を退職したら、今まで加入していた社会保険の切り替えをおこないましょう。会社の退職日の翌日から14日以内に、国民健康保険国民年金に加入する必要があります。

期限を過ぎても手続きはできますが、過去にさかのぼって保険料を支払わなければいけません。

健康保険に関しては、会社員のときに加入していた保険に継続して加入する方法もあります。継続加入は、退職前の被保険者期間が2ヶ月以上必要です。また、継続できる期間は最長で2年間になります。

継続加入するには、退職日の翌日から20日以内の手続きが必要です。手続き場所は加入している保険によって異なるため、健康保険証に記載されている保険者の名称などで確認してみてください。

労災保険

労災保険は、業務・通勤を事由とする事故などに対応した保険です。加入すれば、事故の治療費、休業・障害への補償、死亡時の遺族年金などが受けられます

通常、労災保険は従業員などの労働者が加入するものです。一人親方は事業主であるため、本来は加入対象に含まれません。しかし、業務実態が労働者に近いため、国から特別加入を認められているのです。

労災保険は、仕事を受注するうえでもメリットがあります。労災保険に加入していなければ、仕事を発注しないという業者が少なくないためです。仕事獲得という面でも、労災保険へは加入しておきましょう。

会社員時代に加入していた民間保険がある場合、給与引き去りから口座引き落としに変更するなどの手続きが必要になります

また、一人親方になってから新しく民間保険に入ることも、検討してみください。民間保険は、社会保険では補償しきれない部分をカバーするために利用できます。社会保険では足りないと思った場合は加入すると良いでしょう。

ただし、民間保険は義務ではないので、加入すべきかどうかは慎重に考える必要があります。

一人親方のメリット・デメリットを知ったうえで独立しよう

一人親方として独立すると、デメリットがある一方で、会社員では得られないメリットもたくさん享受できます

デメリットとして挙げられるのは、収入面で不安定になることです。また、一人で事業を回すため、資金繰りや用具の準備を自力でおこなわなければいけません。会社員としての仕事に慣れていると、負担に感じることもあるでしょう。

しかし、一人親方になると、収入がアップする可能性があります。仕事も選べるので、自分のライフスタイルに合わせた働き方ができるのは魅力です。上司や部下がおらず、余計な人間関係にわずらわされることもありません。

一人親方になった場合のメリットとデメリットを考慮のうえ、独立すべきかどうか、じっくりと検討してみましょう。

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監修者からメッセージ

一人親方労災保険組合顧問 覺正 寛治

一人親方労災保険組合顧問覺正 寛治かくしょう かんじ

一人親方に安心安全を提供したい

静岡大学法経学科を修業後、1977年4月に労働省(現厚生労働省)入省。2002年に同省大臣官房地方課課長補佐(人事担当)、2004年に同省労働金庫業務室長を歴任し、2007年に同省鹿児島労働局長。退官後、公益財団法人国際人材育成機構の常務理事、中央労働金庫の審議役を経て、2017年4月に現職。

厚生労働省では「地下鉄サリン事件」「阪神淡路大震災」「単身赴任者の通勤災害」の労災認定や「過労死認定基準」の策定などを担当し、労災保険制度に明るい。一人親方労災保険組合顧問としては、一人親方が安心安全に働けるよう、これまで培った労災関係業務や安全衛生業務の経験を生かして労災保険特別加入制度の普及や災害防止活動に取り組んでいる。

一人親方労災保険組合の労災保険特別加入手続き対象地域

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