雇用保険と労災保険の違いとは?加入時の流れについても紹介!

一人親方労災保険

公開日 / 2024.3.26

「雇用保険」と「労災保険」の違いがよくわからずに悩んでいる人は、多いのではないでしょうか。どちらも、労働者を保護するための保険ですが、その目的や補償内容に明確な違いがあります

ビジネスパーソンであれば、雇用保険と労災保険の違いを知り、正しい知識を持つことが大切です。

そこで今回は、雇用保険と労災保険の違いを解説します。雇用保険と労災保険の加入手続きについても紹介しているので、ぜひ最後までご覧ください。

雇用保険とは

まずは、雇用保険について、その概要や具体的な給付内容を紹介していきます。

雇用保険は、労働者の生活を安定させることを目的とした制度です。労働者が失業したときや休業したときに、給付がおこなわれます

ただし、すべての労働者に雇用保険の加入資格があるわけではありません。雇用保険に加入するには、厚生労働省が定める以下2つの要件を満たすことが必要です。

  1. 31日以上雇用される見込みがある
  2. 1週間の所定労働時間が20時間以上である

出典:厚生労働省「雇用保険の加入手続はきちんとなされていますか!

上記の要件に2つとも当てはまる場合は、雇用保険の被保険者になります。そのため、事業主は「雇用保険被保険者資格取得届」を公共職業安定所(ハローワーク)へ提出しなくてはなりません。提出の期限は、被保険者となった日の属する月の被保険者となった日の属する月の翌月10日までとなっています。

雇用保険の給付内容

雇用保険の給付内容

雇用保険で受けられる給付内容は大きく、上記の4種類です。

各給付内容について、順に解説していきます。

①求職者給付

求職者給付は、被保険者が失業した際に、再就職できるための支援をおこなう給付です。求職者給付で受給できる「基本手当」は原則、1年間となっています。

基本手当で一日に受給できる金額は、失業者の「賃金日額」に45〜80%を乗じた金額です。賃金日額は、離職した日の直前の6か月に毎月決まって支払われた賃金をもとに算出されます。

なお「賃金日額」と「基本手当日額」の上限は、下表に示すとおりです。

「賃金日額」と「基本手当日額」の上限

出典:厚生労働省「雇用保険の基本手当日額が変更になります

なお、求職者給付は「基本手当」以外にも、特定の要件を満たせば、以下の手当も受給できます。

  • 技能習得手当
  • 寄宿手当
  • 傷病手当 など

②就職促進給付

就職促進給付は、失業者の再就職を援助、促進するための給付です。具体的には、以下の手当を受けられます。

就職促進給付

③教育訓練給付

教育訓練給付は、労働者のスキル向上を支援し、雇用の安定および再就職の促進を目的とした給付のことをいいます

教育訓練給付の具体的な給付内容は、以下の3種類です。

教育訓練給付

④雇用継続給付

雇用継続給付は、労働者の職業生活の円滑な継続を援助および促進することを目的とした給付のことをいいます。具体的な給付内容は、下記のとおりです。

雇用継続給付

労災保険とは

次に、労災保険について、その概要や具体的な給付内容を紹介していきます。

労災保険は雇用されている立場の人が、仕事中や通勤中に起きた出来事が原因となって、怪我や病気にかかった場合に保険給付をおこなう制度です

労災保険の対象者は、正社員はもちろんのこと、アルバイトパートの労働者にも加入の義務があります。

労災保険の給付内容

労災保険は、受けられる給付が豊富にあります。具体的には、以下の8つです。

労災保険の給付内容

各給付内容について、順に解説します。

①療養(補償)給付

療養(補償)給付は、病気や怪我の手当をおこなう際に、補償を受けられます。具体的な補償内容は、以下のとおりです。

  • 入院費
  • 診察代
  • 薬代 など

病気や怪我の状態が完治、もしくは症状が固定されると、療養(補償)給付の支給が終わります。

②休業(補償)給付

休業(補償)給付は、怪我や病気が原因で働けなくなり、賃金を受け取れない状態になった際に、補償を受けられます。休業4日目以降1日につき、給付基礎日額の80%にあたる金額を受けることが可能です。

なお、給付基礎日額は、労働基準法の平均賃金に相当する額をいいます。

参考:厚生労働省「休業補償の計算方法を教えてください

③障害(補償)給付

障害(補償)給付は、身体に一定の障害が残った場合に、補償を受けられるものです。給付の内容は、以下のように該当する障害の等級によって変化します

  • 障害等級第1級から第7級:障害(補償)等年金
  • 障害等級第8級から第14級:障害(補償)等一時金

なお、障害等級は、数字が低いほど重度であることを意味し、支給額もそれに応じて高額になる仕組みです。

④遺族(補償)給付

遺族(補償)給付は、死亡した労働者の遺族に対して支払われます。遺族(補償)給付の具体的な給付内容は、以下の2種類です。

  • 遺族(補償)等年金
  • 遺族(補償)等一時金

上記2種類の給付には、それぞれ受給権者の順位が設定されており、再優先順位の人が受給権者となります。

⑤葬祭料(葬祭給付)

葬祭料(葬祭給付)は、労災により亡くなった人の葬儀をおこなう際に給付される制度です。遺族に対して支払われることが多いですが、会社が葬儀をおこなった場合には、その企業に対して葬祭料(葬祭給付)が支給されます。

給付額は、315,000円に給付基礎日額の30日分を加えた金額です。ただし、給付基礎日額の60日分に満たなかった場合は、給付基礎日額の60日分が支給されます。

⑥傷病(補償)年金

労災による病気や怪我の療養を開始してから1年6か月が経過し、以下のいずれかにも当てはまる場合、傷病(補償)年金が支給されます

  1. 傷病が治癒(症状固定)していない
  2. 病気や怪我の状態が、障害等級第1級から第3級のいずれかに該当する

なお、傷病(補償)年金と休業(補償)給付は同時に受けられません。そのため、傷病(補償)年金の対象になると、休業(補償)給付は受けられなくなります。

⑦介護(補償)給付

介護(補償)給付は、障害補償年金、もしくは傷病補償年金の受給者が以下の要件を満たした際に支払われる給付です

  • 障害等級第1級である人
  • 障害等級第2級の精神神経の障害および胸腹部臓器の障害を持っていて、現に介護を受けている人

なお、介護費用に対する支給額は「常時介護」か「随時介護」によって変わります。

⑧二次健康診断等給付

二次健康診断等給付は、一次健康診断の結果で以下2つの要件を両方とも満たした際に支給されます。

  1. 「血圧検査」「血中脂質検査」「血糖検査」「腹囲の検査またはBMI(肥満度)の測定」のすべての検査項目において「異常の所見」があると診断された場合
  2. 「脳血管疾患」または「心臓疾患」の症状を有していないと認められた場合

ただし、労災保険の特別加入者(中小事業主や一人親方など)は、上記の要件を満たしていたとしても「二次健康診断等給付」を受けられません。特別加入者の健康診断の受診は、自主性に任されているからです。

参考:厚生労働省「労災保険二次健康診断等給付

雇用保険と労災保険の主な違い

ここからは、雇用保険と労災保険の違いについて解説します。主な違いは、上記の4点です。各項目について、順に解説します。

①目的

雇用保険と労災保険、どちらも労働者を保護するという点においては同じですが、サポートする場面に違いがあります

  • 雇用保険:労働者が失業したときの生活の援助や、再就職をサポートする
  • 労災保険:業務中にケガや病気にかかった際に、一定の給付をおこなうことで労働者をサポートする

なお、雇用保険と労災保険は総称して「労働保険」と呼ぶこともあるので、これを機に覚えておきましょう。

②加入の対象者

加入の対象者にも、以下のように違いがあります。

  • 雇用保険:条件を満たした労働者
  • 労災保険:労働者全員(アルバイト・パート含む)

上記のように、雇用保険は条件を満たす必要があるので、アルバイト・パートの方は、加入できないケースもあります。雇用保険に加入するには、以下2つの要件を満たさなくてはなりません。

  1. 31日以上雇用される見込みがある
  2. 1週間の所定労働時間が20時間以上である

一方の労災保険は、たとえ一日だけの短期アルバイトであっても、雇用契約が結ばれていれば、労災保険への加入が可能です。

③保険料の負担割合

保険料の負担割合にも、以下のように違いがあります。

  • 雇用保険:会社と労働者の双方で負担
  • 労災保険:会社が全額負担

雇用保険の負担割合は、業種ごとで異なるのが特徴です。毎年、厚生労働省により、雇用保険の負担割合が公表されます。なお、令和5年(2023年)度の雇用保険料率は、下表のとおりです。

令和5年4月1日から令和6年3月31日

出典:厚生労働省「令和5年度雇用保険料率のご案内

④特別加入制度の有無

最後に4つ目の違いは、特別加入制度の有無です。雇用保険には、特別加入制度はありませんが、労災保険には特別加入制度があります。

特別加入制度とは、労働者に該当しない人であっても、労働者に準じて保護することがふさわしいと認められた場合に加入できる制度です

一人親方や中小事業主をはじめとした4業種が対象で、近年は歯科技工士などの特別加入ができる職種が広がっています。

出典:厚生労働省|労災補償

もし、自身が労災保険に特別加入できる対象であるのなら、これを機に加入を検討してみてはいかがでしょうか。労災保険の特別加入については、以下の記事で詳しく解説しています。

関連記事

労災保険の特別加入とは?対象者や手軽な加入方法を解説!

労働保険(雇用保険・労災保険)加入手続き時の流れ

労働保険(雇用保険・労災保険)に加入するための手続きは、一元適用事業に該当するか、二元適用事業に該当するかで、内容が変わります。

一元適用事業・二元適用事業のそれぞれで加入手続きを解説していくので、手続きをおこなう際の参考にしてください。

①一元適用事業に該当する場合

前提として、一元適用事業とは、労災保険と雇用保険料の申告・納付等について、両保険を一元的に取り扱う事業のことをいいます

一元適用事業が労働保険への加入手続きをおこなう際は、以下4つの書類の提出が必要です。

一元適用事業が労働保険への加入手続き

なお「雇用保険適用事業所設置届」と「雇用保険被保険者資格取得届」の手続きは「保険関係成立届」の手続きをおこなったあとに、おこなう必要があります。

参考:厚生労働省「労働保険の成立手続

②二元適用事業に該当する場合

二元適用事業とは、雇用保険と労災保険の適用の仕方を区別し、保険料の申告および納付をそれぞれ別個におこなう事業です。そのため、労働保険の加入手続きは、労災保険と雇用保険のそれぞれで手続きをおこないます。一般的には、農林漁業・建築業等が二元適用事業で、それ以外の事業が一元適用事業となります。

労災保険に加入する際の手続きは、以下の2つです。

労災保険に加入する際の手続き

雇用保険の加入手続きをおこなう際は、以下4つの書類を提出する必要があります。

雇用保険の加入手続きの必要書類

参考:厚生労働省「労働保険の成立手続

雇用保険と労災保険について正しく理解しよう

今回は、雇用保険と労災保険の違いについて解説しました。労働者を保護するという点はどちらも共通ですが、以下の4点に違いがあります。

  1. 目的
  2. 加入の対象者
  3. 保険料の負担割合
  4. 特別加入制度の有無

とくに、特別加入制度が設けられているのは、労災保険の大きなポイントです。労災保険に特別加入できる対象者であるのなら、これを機に加入を検討しましょう。

事業主が雇用保険と労災保険への加入手続きをおこなう際は、一元適用事業二元適用事業のどちらに該当するのかを確認する必要があります。該当する事業を確認したうえで、労働保険の加入手続きをおこないましょう。

監修者からメッセージ

一人親方労災保険組合 理事 古口仁

一人親方労災保険組合顧問覺正 寛治かくしょう かんじ

一人親方に安心安全を提供したい

静岡大学法経学科を修業後、1977年4月に労働省(現厚生労働省)入省。2002年に同省大臣官房地方課課長補佐(人事担当)、2004年に同省労働金庫業務室長を歴任し、2007年に同省鹿児島労働局長。退官後、公益財団法人国際人材育成機構の常務理事、中央労働金庫の審議役を経て、2017年4月に現職。

厚生労働省では「地下鉄サリン事件」「阪神淡路大震災」「単身赴任者の通勤災害」の労災認定や「過労死認定基準」の策定などを担当し、労災保険制度に明るい。一人親方労災保険組合顧問としては、一人親方が安心安全に働けるよう、これまで培った労災関係業務や安全衛生業務の経験を生かして労災保険特別加入制度の普及や災害防止活動に取り組んでいる。

一人親方労災保険組合の労災保険特別加入手続き対象地域

北海道北海道、青森
東北宮城、岩手、秋田、山形、福島
関東東京、神奈川、千葉、埼玉、群馬、茨城、栃木、静岡、山梨
中部長野、新潟、富山、岐阜、愛知
北陸石川、福井
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