就業中の交通事故は労災保険と自賠責保険どちらを利用か状況別で解説
公開日 / 2024.7.03
通勤時や現場へ向かう際など、就業中に交通事故に遭う可能性はゼロではありません。 交通事故では、労災保険と自賠責保険が利用できますが、どちらの保険を優先して利用すべきなのでしょうか。
また「可能なら併用して最大限の補償を受けたい」と考えるのが自然でしょう。
本記事では、労災保険と自賠責保険の違いをはじめ、それぞれの補償内容や併用できる補償、そしてどちらの保険を優先して利用すべきか、状況別の使い分けについて解説します。
労災保険と自賠責保険の違い
そもそも、労災保険と自賠責保険でどのような違いがあるかがわからない方もいるのではないでしょうか。 どちらを利用するか考える前に、それぞれの保険の概要と補償内容について詳しく見ていきましょう。
①労災保険
労災保険は、労働者が通勤・勤務中に事故や災害に遭った際に、傷病に対して補償を受けられる保険です。 国が提供している社会保険の1つであり、さまざまな補償があります。
会社員の場合、会社で労災保険に加入していますが、個人事業主の場合は通常労災保険に加入できません。 しかし、業務の実態によって、特定の業種でのみ特別加入制度によって労災保険に加入できます。
通常労災保険の主な補償内容は、下記のとおりです。
なお、労災保険の補償内容については、下記の記事で詳しく説明しています。
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②自賠責保険
自賠責保険は、すべての自動車・バイクの所有者に法律で加入が義務付けられている保険です。 被害者の救済を目的とした保険であり、人身事故のみが補償の対象となります。
被害者として通勤・勤務中の交通事故に遭った場合、相手方の自賠責保険を利用することになるでしょう。 自賠責保険は下記3つの補償に分かれており、それぞれ限度額が設けられています。
通勤・勤務中の交通事故で労災保険と自賠責保険を併用可能!重複する場合に注意
通勤・勤務中の交通事故に遭った際、労災保険と自賠責保険は併用できます。 しかし、ここで注意したいのは、労災保険と自賠責保険で重複している補償については、どちらか片方しか受けられないということです。
たとえば、どちらの保険でも用意されている休業補償については、併用した際でも片方の補償しか受けられません。
一方、自賠責保険の慰謝料や労災保険の特別支援金のように、片方でのみ提供されている補償については、2つの保険を併用することで両方の補償を受けられます。
「重複するのはどんな補償で、重複しない補償はどれか具体的に知りたい」と思う方も多いはず。次の項目では労災保険と自賠責保険で重複する補償と重複しない補償について具体的に解説します。
労災保険と自賠責保険で重複する補償
労災保険と自賠責で重複する補償は以下の6つがあります。
- 治療費
- 休業補償
- 後遺障害による逸失利益
- 死亡による逸失利益(遺族年金)
- 介護補償
- 葬祭料
これらの補償は労災保険または自賠責保険のどちらかで補償を受けてしまうと、もう一方の補償を受けられなくなります。交通事故にあった際はどちらの保険を利用した方がよいか検討し、選択しましょう。
労災保険と自賠責保険で重複しない補償
労災保険と自賠責保険で重複せず、両方受け取れる補償は以下の2つです。
- 労災保険のみから受け取れる補償「特別支給金」
- 自賠責保険のみから受け取れる補償「慰謝料」
労災のみから受け取れる特別支給金とは、労災保険の給付に上乗せされる給付金です。社会復帰を促す目的で支給されます。
特別給付金は損益相殺による控除をされないため、労災保険や自賠責保険で補償を受けていても追加で受け取れます。労災保険のみから受け取れる特別支給金は、休業特別給付金、障害特別支給金、招待特別年金(一時金)、遺族特別支給金、遺族特別年金、傷病特別年金(一時金)があります。
一方、自賠責保険のみから受け取れる慰謝料とは治療や通院に要した費用とは別に精神的苦痛を受けたことに対する損害賠償のこと。
自賠責保険から受け取れる慰謝料は入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料の3つがあります。これらは労災保険と重複しないため、併用して受け取れます。
「特別支給金」と「慰謝料」は重複せず併用して受け取れる可能性があるので、注意しましょう。
労災保険と自賠責保険はどちらを優先すべき? 状況別の使い分けを解説
通勤・勤務中の交通事故に遭ってしまい労災保険と自賠責保険の両方の請求権がある場合、まずどちらを優先して受けるか決めなくてはなりません。
自動車事故の場合、自賠責保険等からの保険金を優先的に受ける「自賠先行」と労災保険給付を優先的に受ける「労災先行」かを被災者自身で選ぶことができます。それぞれ選ぶ方によって給付内容も変わる可能性もあるので、自分の状況に最も適切なものを選びましょう。
以下のいずれかの状況の場合、明確に優先すべき保険が決まっています。
- 自分の過失割合の方が大きい場合
- 治療費などが高額になる場合
- 短期間の休業が必要な場合
それぞれの状況に応じて、次で詳しく解説します。
①自分の過失割合の方が大きい場合
労災保険の場合、過失割合によって補償が減額されることはありません。
しかし、自賠責保険の場合は事故の過失割合によっては下記の通り補償が減額されます。
自分の過失割合が7割を超えると自賠責保険の補償が減額されるため、過失割合が大きい場合は労災保険を利用する方が良いでしょう。
②治療費などが高額になる場合
補償内容でも解説した通り、自賠責保険には上限額が設定されています。 とくに傷害による損害に対しては120万円までしか補償を受けられず、手術などによってはすぐに上限に達してしまう可能性が高いです。
治療費などが高額になる場合は、自賠責保険では全額補償されない可能性があるため、労災保険を利用すると良いでしょう。
③短期間の休業が必要な場合
労災保険は特別支給金を合わせて収入の8割が支給されるのに対し、自賠責保険は1日当り6,100円×認定休業日数分が支給されます。
ただし実際の収入が6,100円を超えていることを立証できれば、1日当たりの上限を19,000円まで引き上げることができますので、休業した分の収入全額が補償される可能性があります。 そのため、上限額を超えない程度で休業する必要がある場合、自賠責保険がおすすめです。
なお、労災保険と併用することで、休業特別支給金も受けられるでしょう。
就業中の交通事故では状況に合わせて労災保険と自賠責保険を使い分けよう
労災保険は労働者を守るための保険である一方、自賠責保険は交通事故の被害者救済を目的とした保険です。
それぞれ保険の性質が違うため、同じ交通事故でも選んだ保険によって受けられる補償額が違います。 また、重複しない補償については併用が可能です。
交通事故の状況に合わせて、労災保険と自賠責保険の使い分け・併用を検討しましょう。 もし、一人親方で労災保険に加入していない方は、ぜひ加入を検討してください。
監修者からメッセージ
一人親方労災保険組合顧問覺正 寛治かくしょう かんじ
一人親方に安心安全を提供したい
静岡大学法経学科を修業後、1977年4月に労働省(現厚生労働省)入省。2002年に同省大臣官房地方課課長補佐(人事担当)、2004年に同省労働金庫業務室長を歴任し、2007年に同省鹿児島労働局長。退官後、公益財団法人国際人材育成機構の常務理事、中央労働金庫の審議役を経て、2017年4月に現職。
厚生労働省では「地下鉄サリン事件」「阪神淡路大震災」「単身赴任者の通勤災害」の労災認定や「過労死認定基準」の策定などを担当し、労災保険制度に明るい。一人親方労災保険組合顧問としては、一人親方が安心安全に働けるよう、これまで培った労災関係業務や安全衛生業務の経験を生かして労災保険特別加入制度の普及や災害防止活動に取り組んでいる。
一人親方労災保険組合の労災保険特別加入手続き対象地域
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