労働保険事務組合とは?労災の特別加入制度を中小事業主向けに解説

一人親方労災保険

公開日 / 2024.7.02

労働保険事務組合は、中小事業主にさまざまなメリットをもたらしてくれる組織です。

事務組合に加入することで、労働保険の事務処理(印紙保険料に関する事務並びに労災保険及び雇用保険の保険給付に関する請求等の事務は除く)を代行してもらえるだけでなく、労災保険の特別加入制度により、通常は加入できない事業主や役員の方でも労災保険に加入できるようになります

本記事では労働保険事務組合の概要や労災の特別加入制度について詳しく解説し、中小事業主にとってのメリットや費用、手続き方法などについてもご紹介します。

労働保険事務組合とは

労働保険事務組合(以下、事務組合)とは、厚生労働大臣から認可を受け、中小企業の労働保険(労災保険・雇用保険)に関する書類の作成や、申告、納付などを事業主に代わっておこなう組織のことです

労働保険の事務処理は複雑であり、リソースの捻出が難しい中小事業主にとって非常に頼もしい存在となっています。

出典:厚生労働省「労働保険事務組合制度

事務組合には、事業主団体である商工会や商工会議所が運営しているものや、社会保険労務士事務所に併設されているものなどがあります。

社会保険に関連する業務を別途委託したい場合には、社会保険労務士事務所が併設された事務組合を選択すると良いでしょう。

中小事業主における労災保険の特別加入制度とは

「労災保険の特別加入制度」とは、中小事業主や家族従事者、役員など、本来は労災保険の補償を受けられない方が労災保険に特別加入できる制度のことです

中小事業主が労災保険に加入するためには、以下の条件を満たす必要があります。

  1. 労働保険に関する事務作業を労働保険事務組合に委託していること
  2. 中小事業主等であること(下記の表を参照)
  3. 一人以上の労働者を雇用していること
  4. 労働者を雇用する日数が年間あたり100日を超えること
  5. 雇用している労働者と同じ業務に従事していること
  6. 雇用している労働者の人数が、業種ごとに下記表の人数「以下」であること
労災保険の特別加入の対象となる企業の規模

出典:厚生労働省「特別加入制度のしおり(中小事業主等用)

なお、建設業の場合、現場によっては特別加入証明書の提出を求められる場合があります。詳しくは下記の記事で解説していますので、あわせて読んでみてください。

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建設業の中小企業主は労災保険に特別加入できる!補償範囲や加入方法

労働保険の事務処理を事務組合に委託するメリット

労働保険の事務処理を事務組合に委託することで、以下のようなメリットがあります。

  • 労災保険や雇用保険に関する事務処理のコストを削減できる
  • 労働保険料の金額にかかわらず、労働保険料を年3回に分割納付できる
  • 中小事業主や役員、家族従事者も労災保険に加入できる
  • 社会保険の事務処理も別途委託できる(社会保険労務士事務所が併設されている場合)

労働保険に関する申請や届出などの事務処理は複雑で、非常に手間がかかります。事務組合に委託することで、事務にかかる時間や人件費の節約が可能です

また、労働保険料は本来であれば概算保険料額が40万円(労災保険か雇用保険のどちらか一方の保険関係のみ成立している場合は20万円)を超えないと分割納付できませんが、事務組合に加入している場合は金額にかかわらず、年3回に分割して納付できます。

出典:厚生労働省「労働保険料の申告・納付

中小事業主や役員、家族従事者が労災保険に特別加入できるのもメリットです。中小事業主が労災保険に特別加入するためには、労働保険の事務処理を事務組合に委託しなければなりません。

社会保険労務士事務所が併設されている事業組合を選べば、社会保険に関する手続きを別途委託することも可能です。

労災保険の特別加入を事務組合に委託するときの費用

中小事業主が労災保険へと特別加入するためには、労働保険に関する事務処理を事務組合に委託することが必須条件です。

委託にかかる費用は、「労働保険料」と事務組合に支払う「組合費(※)」の2つがあります

※団体によっては委託費や事務処理費と表記している場合がある

労働保険料は法律に基づいて計算されるため、金額はどの事務組合を選んでも変わりません。

一方で、組合費は団体によって料金体系が異なるため、事前に確認しておく必要があります。

たとえば、一人親方労災保険組合のグループ団体である「常磐労働福祉協会」の組合費は以下のとおりです。

常盤労働福祉協会の組合費

団体によっては、事務処理以外の業務やサービスをあわせておこなっている場合もあります。料金だけでなく、地域やサービスについても考慮し、どの事務組合に委託すべきかを検討することが大切です。

労災保険の特別加入手続きを事務組合に委託する手順

労災保険の特別加入手続きを委託する手順は、事業組合団体によって異なります

一例として、一人親方労災保険組合のグループ団体である「常磐労働福祉協会」の手続きの流れは以下のとおりです。

  1. 本ホームページ内にある申込フォームより申し込み。
  2. 受付後、加入手続きに必要な追加書類を求めるメールが届く(その際、初回費用についてもご案内いたします)。
  3. 必要事項を記入の上、FAXまたはメールにて返送する。
  4. 初回費用を入金する。
  5. 手続き完了後、特別加入者証が届く。

また、すでに何らかの事業主団体に加入している場合は、その団体が労働保険事務組合として厚生労働大臣の認可を受けているかどうかも確認しておきましょう。

現在加入中の団体が認可を受けている場合、その団体に委託して特別加入する方法もあります。

加入している団体が認可を受けていない場合、または事業主団体に加入していない場合は、既存の事務組合の中から地域や業態、サービスなどに応じて選ぶことになります。

労災保険の特別加入時に健康診断が必要なケースとは

労災保険の特別加入を申請する際、下記の業務にそれぞれ定められた期間従事したことがある場合は、加入時健康診断が必要になります

労災保険の特別加入時に必要な健康診断

出典:厚生労働省「特別加入制度のしおり(中小事業主等用)

加入時健康診断が必要であると認められた場合には、所定の手続きが必要です。詳しくは所属する事務組合にお訪ねください。

加入時健康診断にかかる費用は国の負担となります。(※交通費は自己負担となります)

健康診断証明書の未提出や、業務歴などについて虚偽の報告をした場合には、労災に加入できなくなったり、補償が受けられなくなったりすることがあるので、注意してください。

労災保険へ特別加入するなら事務作業を労働保険事務組合に委託しよう

中小事業主が労災保険への加入のために必要なことは、労働保険の事務処理を労働保険事務組合へ委託することです。

委託することで、労災保険に特別加入できるだけでなく、従業員の労働保険(労災保険・雇用保険)にかかる事務処理の手間が省けたり、労働保険料を分割納付できたりするなど、さまざまなメリットがあります。

ただし、委託する団体によって組合費やその他のサービスが異なるため、事前に複数の事務組合を比較し、最適な団体を選ぶことが大切です。

監修者からメッセージ

一人親方労災保険組合顧問 覺正 寛治

一人親方労災保険組合顧問覺正 寛治かくしょう かんじ

一人親方に安心安全を提供したい

静岡大学法経学科を修業後、1977年4月に労働省(現厚生労働省)入省。2002年に同省大臣官房地方課課長補佐(人事担当)、2004年に同省労働金庫業務室長を歴任し、2007年に同省鹿児島労働局長。退官後、公益財団法人国際人材育成機構の常務理事、中央労働金庫の審議役を経て、2017年4月に現職。

厚生労働省では「地下鉄サリン事件」「阪神淡路大震災」「単身赴任者の通勤災害」の労災認定や「過労死認定基準」の策定などを担当し、労災保険制度に明るい。一人親方労災保険組合顧問としては、一人親方が安心安全に働けるよう、これまで培った労災関係業務や安全衛生業務の経験を生かして労災保険特別加入制度の普及や災害防止活動に取り組んでいる。

一人親方労災保険組合の労災保険特別加入手続き対象地域

北海道北海道、青森
東北宮城、岩手、秋田、山形、福島
関東東京、神奈川、千葉、埼玉、群馬、茨城、栃木、静岡、山梨
中部長野、新潟、富山、岐阜、愛知
北陸石川、福井
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