フードデリバリー配達員向けの労災保険は? 特別加入についても解説
公開日 / 2024.7.03
個人事業主のフードデリバリー配達員は、労災保険が任意加入となっているため、加入しないまま働いている方もいるでしょう。
しかし、労災保険に加入しておかないと、万が一のときに高額な入院費や治療費が掛かってしまうだけでなく、ケガなどで働けなくなったとき、生活に困ってしまうかもしれません。
この記事では、フードデリバリー配達員向けの労災保険について、加入しないリスクや保険料、加入方法について解説します。フードデリバリー配達員が加入すべき保険についても紹介しているので、ぜひ最後まで読んでみてください。
そもそも労災保険とは
労災保険(正式名:労働者災害補償保険)とは、業務中・通勤中のケガや病気などに対して給付される保険制度です。
※配達員の場合、通勤災害は補償対象となりません。
たとえば、配達中に自動車と接触してケガをしてしまった場合、治療費や入院費は労災保険に加入していて、かつ労災と認められれば療養(補償)給付として全額支給されます。
労災保険は基本的に雇用されている労働者のみが加入の対象ですが、フードデリバリー配達員などでの個人事業主が、特別加入として任意で加入できる職業もあります。
フードデリバリー配達員が労災保険に加入しないとどうなる?
フードデリバリー配達員は個人事業主であるため、労災保険に加入していない方もいます。
労災保険に加入していないと、業務中の事故でケガをした場合にかかる医療費は、すべて自身で支払わなくてはいけません。
また、治療や入院で働けない期間は収入がなくなり、生計を立てられなくなる可能性もあります。
労災保険に加入しておけば、治療費や入院費だけでなく、ケガによって働けない期間の収入は「休業補償」である程度補えます。
フードデリバリー配達員でも特別加入できる「一人親方労災保険」とは
フードデリバリー配達員はほとんどの場合※、労災保険から外れてしまいます。フードデリバリー配達員は業務委託された個人事業主であり、雇用された労働者ではないからです。
※雇用契約をされている場合は雇用元の労災保険の対象です
しかし、令和3年9月からフードデリバリー配達員も労災保険に加入できるようになりました。
出典:厚生労働省「自転車を使用して貨物運送事業を行う皆さまへ」
それが「一人親方労災保険(労災保険の特別加入)」です。普段は会社で働き、副業でフードデリバリー配達員をしている方も加入することで補償を受けられます。
主な補償内容は以下のとおりです。
出典:厚生労働省「労災保険給付等一覧」
フードデリバリー配達員の労災保険の保険料
フードデリバリー配達員の労災保険の保険料は、給付基礎日額(1日の平均賃金に相当する金額)によって異なります。
通常の労災保険では給付基礎日額は収入に応じて自動で算出されますが、フードデリバリー配達員が特別加入する場合、自身で給付基礎日額を選択します。
給付基礎日額は、休業したらどれくらいの損失が出るかや、自身の所得水準に見合った額で申請しましょう。申請後は労働局長が承認した額で決定されます。
一例ですが、4月から翌年3月末まで1年間加入する場合の、年間保険料は以下のとおりです。
出典:厚生労働省「②特別加入制度のしおり(一人親方用)」
フードデリバリー配達員が労災保険に加入する方法・手順
フードデリバリー配達員が労災保険に特別加入するには、労働局より承認を受けた「特別加入団体」に申し込む必要があります。
手続きや入会費や年会費などの手数料、費用の支払い方法は各団体によって異なります。
たとえば、当団体「一人親方労災保険組合」より特別加入する場合の手順は以下のとおりです。
【画像】
タイトル:労災保険に特別加入する手順
①フォームから申し込む
②費用支払いの案内がメール・郵送等で届く
③銀行やコンビニ等で支払いする
④組合員証が発送される
申し込みフォームでは、個人情報や車両情報、希望の給付基礎日額などの情報を入力し、許可証等が必要となる職種の場合は画像添付します。
申し込み後は給付基礎日額から計算された支払い金額の案内が届くため、記載の費用を団体へ支払いましょう。
支払いが完了すると団体側が管轄の労働基準監督署へ加入申請をおこないます。加入申請が通り組合員証が送付されてきたら、手続き完了です。
労災保険以外にフードデリバリー配達員が加入すべき保険は?
会社を辞め、個人事業主としてフードデリバリー配達員になる場合、国民健康保険や国民年金への加入手続きが必要です。
また、住んでいる地域や、フードデリバリーの企業によっては配達員として登録する際、損害賠償責任保険への加入が必須とされています。
それぞれ、詳しくみていきましょう。
1.国民健康保険
国民健康保険とは、会社員や生活保護の受給者、後期高齢者医療制度の対象者などを除く、すべての国民が加入できる健康保険です。
個人事業主やフリーランスは国民健康保険への加入が義務となっています。
原則として会社を退職した翌日から14日以内に加入する必要があるため、まだ加入されていない方はお近くの役所で加入手続きをしてください。
同時に国民年金の加入手続きも済ませておくと良いでしょう。
2.国民年金
国民年金とは、20歳以上60歳未満の国民すべてが加入する年金制度です。
個人事業主やフリーランスの方(第1号被保険者)は、国民年金の保険料を自分で納める必要があります。
国民年金を滞納していると、将来受け取る年金が減ってしまう可能性があるため注意してください。
会社などに勤め、厚生年金保険や共済組合に加入している方(第2号被保険者)、副業としてフードデリバリー配達員をしている方はとくに手続きの必要はありません。
3.損害賠償責任保険
損害賠償責任保険とは、事故で他人に怪我などを追わせてしまった場合や、他人の物を壊してしまった場合に、その損害額に対して支払われる保険です。
労災保険は基本的に加入者が給付対象となっていますが、他人に怪我を負わせた場合や、器物破損による損害賠償は対象外となっています。
令和5年4月1日時点では、32都道府県・1政令都市で自転車の損害賠償責任保険等への加入が義務付けられています。
※岡山県および山口県は、いずれも令和6年10月1日に施行予定です。
出典:国土交通省「自転車損害賠償責任保険等への加入促進について」
フードデリバリーに登録する際、保険証書の提出を求められる場合があるため、義務でない地域にお住まいの方も加入しておくようにしましょう。
なお、フードデリバリーの中でも出前館に登録をしようとしている方は、以下の記事も読んでみてください。保険選びのポイントを解説しています。
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フードデリバリー配達員は労災保険に加入しよう
労災保険の特別加入は、原付バイクや自動車だけでなく、自転車で配達をおこなう方も補償の対象です。
「令和3年版交通安全白書」によると、令和2年中に発生した交通事故における自転車の死傷者数は、歩行者、二輪車に次いで3番目に多いと報告されています。また、軽傷者は自動車に次いで自転車が多いとのことでした。
出典:内閣府「令和3年版交通安全白書」
保険料は自己負担となりますが、フードデリバリー配達員として働いているなら、配達中の交通事故リスクを考え、労災保険には加入するようにしましょう。
監修者からメッセージ
一人親方労災保険組合顧問覺正 寛治かくしょう かんじ
一人親方に安心安全を提供したい
静岡大学法経学科を修業後、1977年4月に労働省(現厚生労働省)入省。2002年に同省大臣官房地方課課長補佐(人事担当)、2004年に同省労働金庫業務室長を歴任し、2007年に同省鹿児島労働局長。退官後、公益財団法人国際人材育成機構の常務理事、中央労働金庫の審議役を経て、2017年4月に現職。
厚生労働省では「地下鉄サリン事件」「阪神淡路大震災」「単身赴任者の通勤災害」の労災認定や「過労死認定基準」の策定などを担当し、労災保険制度に明るい。一人親方労災保険組合顧問としては、一人親方が安心安全に働けるよう、これまで培った労災関係業務や安全衛生業務の経験を生かして労災保険特別加入制度の普及や災害防止活動に取り組んでいる。
一人親方労災保険組合の労災保険特別加入手続き対象地域
北海道 | 北海道、青森 |
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東北 | 宮城、岩手、秋田、山形、福島 |
関東 | 東京、神奈川、千葉、埼玉、群馬、茨城、栃木、静岡、山梨 |
中部 | 長野、新潟、富山、岐阜、愛知 |
北陸 | 石川、福井 |
関西 | 大阪、兵庫、京都、奈良、和歌山、滋賀、三重、鳥取、岡山 |
中国 | 広島、山口、島根 |
四国 | 愛媛、徳島、香川、高知 |
九州 | 福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島 |
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